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活動概要

 温室効果ガスの削減が地球規模での喫緊かつ最重要課題である今日、2050年カーボンニュートラルの実現が政策目標として掲げられ、化石燃料から再生可能エネルギーへの急速なシフトに伴いモーターやインバーターの需要が急増している。日本の年間電力消費量は、2010年度に1,354億kWhに達し、その後も10000億kWh付近で推移しているが、このうち約半分がモーターで消費されており、モーターとそれを駆動するインバーター等のパワーエレクトロニクス・システムの省エネルギー化が世界規模での課題である。パワーエレクトロニクスは、電力の開閉や変換を迅速かつ効率的に行なう技術であり、従来の電力工学とパワー半導体を基礎とする電子工学、制御工学が融合した工学である。したがって、高周波で動作するワイドバンドギャップ半導体やインバーター用リアクトル、高効率なモーターなどの電子デバイス/機器が多用され、それらに不可欠な素材であるバルク軟磁性材料についても小型軽量かつ数百kHzから数十MHzの高周波領域での低損失化が強く要求されている。
 バルク軟磁性材料は、商用トランスやモーターに広く用いられている電磁鋼板がその代表的なものであるが、開発されてから既に100年以上が経過している。1970年代以降、電磁鋼板の代替を狙ってアモルファス構造やナノ結晶構造をもつ薄帯および微粉末の開発が盛んに行われ、一部は実用化されているが、これらの素材は鉄損の周波数特性には優れるものの、飽和磁束密度が小さいために銅損が大きくなってしまうため、大電流を扱うパワーエレクトロニクス・システムには利用し難い。また、同システムに用いられるリアクトルやチョークコイル等の磁性部品は、直流が重畳された状態でパルス駆動されるが、このような状況下で正しく鉄損を評価する手法は世界的にも確立されていない。さらに鉄損解析に至っては数10年前の理論が未だに広く用いられており、現実のヒステリシス損失や異常渦電流損失の起源や発生機構についての理解がほとんど進んでいないのが実情である。
 したがって、次世代パワーエレクトロニクス・システムの実現のためには、実動作環境での磁性部品/材料の評価手法を確立し鉄損物理起源の解明を進め高周波損失特性に優れた新たなバルク軟磁性材料を創製することが喫緊の課題となる。
 本研究拠点では、次世代パワーエレクトロニクス・システムに適した新たなバルク軟磁性材料を創製し社会実装を進めるため、3つの研究グループ(計測・解析グループ、設計・試作グループ、デバイス化・システム実装ソリューション開発グループ)を編成し、以下に示す5つの要素課題を掲げ、本学の複数の研究者(客員を含む)が密に連携して産業界の研究開発者と共に活動する。



(1)マルチモーダル鉄損解析:
孤立粒子からバルクまでのスピンダイナミクス解析、微細組織解析ならびに放射光の活用も含めたマルチスケール・マルチモーダル鉄損解析を、様々な軟磁性材料を対象に行い、鉄損物理起源の解明を進め、新規なバルク軟磁性材料の設計指針を提案する。

(2)鉄損共通基盤構築:
パワーエレクトロニクス機器の実動作環境での磁性部品/材料の評価手法を確立し、既存の軟材料、および新たに開発された材料を対象にロスマップ解析を実施し、データベースを構築する。得られたデータと知見を共通基盤技術として広く普及させるための国際標準化を目指す。

(3)低損失素材開発:
上記した活動の成果を基に、独自のバルク化プロセス開発とマテリアルズインフォマティクスを併用し、飽和磁束密度1.7T以上の新規低損失材料の創製を目指す。併せて、広帯域化するEMC対策用の磁性材料の創製も進める。

(4)バルク化プロセス開発:
信頼性の高い高密度なコアを具現化するバルク構造、バインダ種、副資材、およびバルク化プロセスの開発を行い、コアでの飽和磁束密度≥1.5Tの低損失コアを提供する。

(5)デバイス化~システム実装ソリューション開発: 
大電力で高周波動作するテストベンチを試作し、新たに開発した低損失バルク軟磁性材料を用いたリアクトルおよびチョークコイルを試作・実装し、システムレベルでの効果を検証すると共に、得られた知見を損失解析および材料創製に展開する。また、パワーデバイスの高周波動作化に伴って電磁環境の劣化が懸念されるため、広帯域に亘るEMCソリューション開発を行う。




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